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「考えよ!」

 ワールドカップが開幕し、日本代表が初物づくしの1勝を挙げました。初物づくしとは、海外のワールドカップで初、日本人監督として初、ワールドカップ初戦で勝ったのは初、などです。日本人として、サッカーファンとして、喜ばしいこと、この上ありません。4年に1度のサッカーの祭典に出場できるというのに全然盛り上がっていませんでしたので(しかし、国民の期待が高まらなかったのは結果としてはプラスに働いたと思います。期待が高まるとメディアへの露出が増え、余計なプレッシャーがかかります)、この快挙には喜びもひとしおです。

 それにしてもあきれるのは、これまで岡田監督(およびその戦略)に批判的だったメディアが一斉に、絶賛に変わっていることです。ご都合主義と言いますか、そういう論調だったらプロの書き手でなくてもできるわけで、もう少し深い洞察をもって、何ができていて、何ができていなくて、どうすれば良いのか、どういう点に注目すればより楽しめるのかを、専門家の立場で書いてくれればいいのに、と思うこともしばしばありました。(もちろん、そういう記事を書いてくれる人もいますが)

 そこへいくと前日本代表監督のイビチャ・オシム氏の見方は非常に的を射ていて、私は同氏のコメントを読んでいるとすっきりします。同氏の言葉は時に哲学的で、難解で、しかし人生知に満ちているということで、「オシム語録」などと呼ばれ、書籍で売られたりするほどです。今回もワールドカップの日本代表への提言という形で本が出版され、そのタイトルが、『考えよ!』というものでした。

 私はタイトルが気に入ったので購入しましたが、読んでいて、人生に通じる面が多々あると思いました。同氏が掲げるサッカーは「考えて走るサッカー」ですが、人生においても、自分は何をしたいのか、何のためにやっているのか、自分がすることによって人や社会にどういう影響があるのか、ということを常に自分の頭で考え、それをある程度説明できるようにしておくことはとても大切だと思うのです。アメリカでの生長の家の布教を通して、その必要性を痛感しました。

 この本には、オシム氏の日本サッカー界に対する並々ならぬ愛情があふれていて、中には日本の教育システムや選手を名指して批判している部分もあるのですが、それが決して嫌みにならず、本人たちもそれを読んだらきっと参考になるだろう、と私には思えます。しかし同氏は、日本人は欠点を指摘すると批判していると思われるから困る、と嘆いていたことがありました。確かに欠点を指摘するのは難しいです。指摘された方は間違っている指摘はもちろん、あまりにストレートに言われた場合に傷つくこともありますから、適切な人、言い方、場面が整ったときにはじめて、功を奏するのだと思います。

 またオシム氏は同書の中で繰り返し、相手に対するリスペクトがなければならない、しかし相手を過大評価してはならない、と述べています。私はこれは人生における人間関係、そして問題への対処に対しても同じ事が言えるのではないか、と思いました。過大評価をは恐怖心を生み、自分にはできない、という自信喪失につながります。しかし過信してはやはり実力を発揮できませんから、そのバランスが大切、ということだと思います。同氏は、今回の日本チームの予選について次のように述べています:

  日本がカメルーン、オランダ、デンマークという3つのチームに
 負けることは、たいした痛手ではない。何も失うものは無い。世
 界の基準から見れば予想通りの結果に過ぎない。負けても現
 在も同じ状況に留まるだけのことである。
  しかし、もしそこで勝利を得られたならば、それは「自信」とい
 うとてつもなく大きな財産となるのだ。(『同書』145頁)

 このように考えることができれば、たとえ初戦のカメルーン戦で負けても落ち込むことなく、また今回のように勝ったとしても浮かれることなく、次の目を向けて進むことができると思います。

 世界のサッカーの中ではまだまだ歴史が浅く、沢山学ばなければならない日本のチームが4回も連続でワールドカップに出場できたことは非常に有り難いことであり、さらに前回できなかったこと(1点を最後まで辛抱強く守り抜いたこと)ができたことも非常な進歩ですから、それだけでも喜ぶべきことだと思います。しかし世界的なレベルからするとカメルーンとの一戦は「生ぬるい試合」(英BBC)であり、まだまだ勉強し、練習し、改善する余地があるところですから、高い目標を掲げて試合に臨むことは素晴らしく大切なことではありますが、今の自分たちの置かれた立場をよく理解しつつ、自分たちの持てるものを存分に発揮してくれれば、と思います。

 阿部 哲也

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コメント

メディア報道というのは、持ち上げるにせよ叩くにせよ「注目さえされれば全てヨシ」という態度が見え隠れしますよね。事前に騒がれすぎないのは良かったと思います!
アメリカはあまりサッカーで盛り上がらないので、特にスポーツに対しては疎くなっていく一方でしたがインターネットのおかげで、かろうじて母国の活躍を知ることができました!

投稿: うろこ | 2010/06/19 03:34

 うろこさん、コメント有り難うございます。

 そうですね、確かに注目を集めて読んでもらわなければ、というメディア側の気持ちは理解できますけど、本当は身近なところには、沢山の深切や思いやり、自然の美しさなどがあるのですから、もっと人々がハッピーになるようなニュース、出来事、ものの見方を報道してくれれば、と思わずにはいられません。

 ところで私が不思議でしょうがないのは、アメリカではサッカーに関心がある人がとても限られているのに、どうしてアメリカのサッカー(ナショナルチーム)がこんなに強いのだろう、ということです。中学生、高校生まではサッカーチームが沢山あって盛んなのは分かるのですが、国民もほとんどが関心がなくて、盛り上がらない。でも、もしかしたら注目されないから強いのかも、とも思ったりします。

-TA

投稿: TA | 2010/06/19 11:37

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